まっすぐ映画

行進する主人公

 久しぶりにストレートな映画を観た。

スタンドアップ
 工場と鉱山という違いこそあれ、アメリカのど田舎で過酷に働くシングルマザーという、「嫌だけど観てしまう映画」ベスト10には必ず入る悲劇ミュージカル『ダンサー・イン・ザ・ダーク』にまるでよく似たシチュエーションで「ウワー、やめてくれー」と思いながら観ていたのだけど、これは映画タイトルを読めばある程度想像がつくようにああいった作品ではない。
 DV夫と別れて帰ってきた故郷ミネソタの住人の視線は思いのほか厳しく、鉱山労働者の父親は娘を厄介者扱い、おまけに息子は自分をアバズレ呼ばわり。「こんなくそ田舎なんか二度と戻ってくるもんか」の捨て台詞とともに西海岸に出て行って心機一転となると予想していたけどそうはならない。なにせ原題は"NORTH COUNTRY"なので、ひたすら厳寒のミネソタで頑張るしかない。
 「これでどうしろというの(怒)」の四面楚歌の彼女が選んだ新しい仕事は、なんと親父と同じ鉱山労働者。泥まみれグリスまみれに大嫌がらせ。セクハラなんて生易しい言葉では追いつかないような超逆境。レイプされそうになっても関わりたくないと数少ない仲間の女性労働者もだんまりを決め込む。おい、これはいつの話だ? ちょっとありえなさすぎるんじゃないかな? でも最初に"Inspired by true story"とクレジットされているからそういうことはある/あったのだろう。『バナナ・フィッシュ』でアッシュが言っていた「アメリカは巨大な田舎だ」という科白は本当だったんだな。『テルマ&ルイーズ』だとそういう腐れ外道たちには怒りの銃弾をぶちかますことになるのだったけど、本作は「すべての闘う女性たちのために」と銘打ってもいいくらいのまっすぐな映画なので、仁義映画みたいにプッツン大暴れという事態にはならない。映画はあくまでリーガルな物語なのでここらへんから法廷ものへとなっていく。といっても弁護士検事との丁丁発止のやり取りはあんまりなくて主軸はあくまで主役の女性と周りの人間関係。そこに家族の修復や難病の友人やら過去のトラウマやら色々入ってくるけどメインはあくまで主人公の一途な踏ん張りが道を開かせる。
 今回の作品でシャーリーズ・セロンはこういう役がやりたい女優だったのだな、と改めて分かった次第。

 文体は淀川長治の銀幕旅行の節をちょっと真似してみたのだけれどどうかしら。