革命という言葉は、古代中国の易経に見え、天命が改まり王統が交替することを易姓革命といった。今日この語は、社会的・政治的意味での言葉の訳語として用いられる。
近代的な革命の概念、すなわち社会の全面的変革による突然の新しい歴史過程の展開という意味は、ハンナ・アレントが『革命について』(ちくま学芸文庫)で考察する一八世紀末の二つの大革命、アメリカ独立革命とフランス革命によってもたらされた。注目すべきは、フランス革命においてレボリューションという言葉に含意されていた「回転」とともに「不可抗力性」の概念が政治的に転義されて一方的に強調されるようになったことである。そして革命は〈政治権力の根本的変革を中心とする社会の大変動〉として今日的意味に定義され、同一支配関係内部における権力担当者やグループが交替するクーデタなどと区別される存在となったのだ。
- 作者: ハンナアレント,Hannah Arendt,志水速雄
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1995/06/01
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 24回
- この商品を含むブログ (26件) を見る
そのなかでも政治学からアプローチする中野実の『革命 現代政治学叢書4』(東京大学出版会)は、政治変動や政治発展の一つの形式として革命を位置付け、いつの時代も避けられない政治における暴力の意味を鋭く考察している。本書では、近現代の革命を対立、標的、目標、動因、象徴、指導、主体、手段、正当化、反作用の要素からみて体系的に比較分析し、政治現象としての革命の普遍的特徴を抽出しようとする。要素比較によって見えてくるのは、各革命の特殊性よりも諸革命の共通性や普遍性であるという。
- 作者: 中野実
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 1989/07
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 23回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
今から百年前の一九一一年はメキシコと中国にとって革命の年だった。本書にならって比較の観点から、両革命をみてみよう。
国本伊代『メキシコ革命』(山川出版社)が分かりやすくまとめているように、独裁体制の打破を目指す政治運動として始まったメキシコ革命は、その過程で農民と労働者を巻き込み、民族主義的社会革命へと変容した。マデロ、ビリャ、サパタら英雄達の活躍で独裁は倒されたものの、反革命や革命勢力同士の闘争が繰り返され大量の国民の血が流される内乱状態が長く続いた。
- 作者: 国本伊代
- 出版社/メーカー: 山川出版社
- 発売日: 2008/06/01
- メディア: 単行本
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- 作者: 野沢豊
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1972/02/25
- メディア: 新書
- 購入: 2人 クリック: 5回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
そして権力が人的・文化的多数による少数への抑圧・排除を含むならば、革命へのアプローチには、一方で革命から排除された側、革命と距離を取った側から革命をとらえる視点が強調されてもいいだろう。
この領野に文学が果たす役割は大きい。例えば魯迅は革命では人々も郷村社会の構造もなにひとつ変わっていないことを指摘し、革命のもたらした希望と幻滅にまっすぐ向き合う。『阿Q正伝・狂人日記』や『評論集』(ともに岩波文庫)は、唾棄すべき愚かな民衆を描くことで、文学からの革命を起こす。またメキシコでも《明治四五年、ぼくは二十歳だった。それがいったいどのような年であったか誰にも語らせまい。》印象的な一文から始まる矢作俊彦『悲劇週間』(文藝春秋)のように、後に詩人となるサムライの息子、堀口大學の目から見たマデロと革命を描く。
- 作者: 魯迅,竹内好
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1981/02
- メディア: 文庫
- 購入: 5人 クリック: 56回
- この商品を含むブログ (56件) を見る
- 作者: 竹内好
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1981/09/16
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 25回
- この商品を含むブログ (16件) を見る
- 作者: 矢作俊彦
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/12
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 23回
- この商品を含むブログ (28件) を見る