Daisukeyの日記

安井大輔の日記です。

「ゾンビの突発的発生は必ず起こる!」らしいよ

ゾンビ襲来: 国際政治理論で、その日に備える

ゾンビ襲来: 国際政治理論で、その日に備える

 ある日、突然死んだはずの人間が生きた人を襲いだす、しかも襲われた人も彼らの仲間になって人々を襲いだす。映画や漫画、ゲームで聞いたことあるような設定…そう御存知ゾンビの大量発生である! 世界がゾンビに覆われ人類が存亡の危機にさらされるなかどう対処していくべきなのか? こんな大迷題に大まじめに取り組んだのが本書だ。
 ポピュラーカルチャーを題材にしたおふざけ本と思われるかもしれないが、実は国際関係に関する政治理論をわかりやすく解説してくれる教科書でもある。米国の外交政策に大きな影響を与える外交問題評議会メンバーの政治学者でゾンビ研究学会諮問委員も務める著者ダニエル・ドレズナー氏が、血しぶきをあげ肉片を飛び散らせながら襲い掛かるゾンビの群れに対し、冷静に国際政治学を「講義」してくれる。

ゾンビに立ち向かう国際政治理論 
 ゾンビという国境を越えて増殖し拡散する(グローバルな)安全保障上の脅威に対して、各国政府がとるべき対策にはさまざまな立場があるが、本書は米国の国際政治諸理論(リアリズム、リベラリズムネオコン、社会的構成主義、国内政治、官僚政治モデル)のパラダイムに則り、各理論がいかにゾンビ問題を予測し対処するかについて解説する。たとえば、リベラリズムは国際協調を重視する考え方であるが、リベラリストはゾンビと人類の協力がほぼ不可能であることを認めている。そうである以上、ゾンビをマネーロンダリングや食物媒介疾患のような、グローバル化における「負の公共財」とみなすことになる。そこで、彼らの拡散を防ぐために世界ゾンビ機構(WZO)のような国際機関が創設されることとなる。
 一方でネオコンの思想となると、リベラリストのグローバルガバナンスによる対処は嘲笑われる。人類による覇権の持続を確かなものにするために、この学派は代わりに攻撃的で軍事化された対応を推奨する。ゾンビが向かってくるのを待つよりも、彼らに対して先制攻撃を仕掛ける政策オプションを推奨する。しかしながらテロとのアナロジーを考えれば一目瞭然なように、この戦略は驚くべきコストに対し長期的には薄い効果しか見込めない。
 このように本書は既存理論の可能性とその限界を見極めようとする。またゾンビを疫病の大流行とみれば、うなづける記述も多い。確かに昨今の鳥インフルエンザSARSの世界的流行に対する各国政府の対応を思い起こせば、ゾンビへの対応を考えることはあながち無益なこととは言い切れない。残念ながらどの理論が最適な対応策とはいえないが、個々の状況に対し個別に適切に対応していけば、ゾンビの出現が即人類滅亡に結びつくとはいえないと著者は主張し、読者を更なる研究へと誘う。「大学生の生態とゾンビの類似性」など抱腹絶倒な内容も盛り込みつつ、本書は意外にも優れた国際政治の入門書なのであった。
 なお巻末には訳者(首都大学東京政治学者たち)による国際政治学、ゾンビ学双方の詳細な解説が付される。本書の理論に関する基本文献からゾンビに関する基本書や諸作品やWEBサイトまで紹介されており、初心者やゾンビ愛のない読者にもきわめて親切なつくりとなっている。