虎よ、虎よ!

 ジョウント効果と呼ばれるテレポーテーション能力が社会に組み込まれた25世紀。星間戦争が繰り広げられている太陽系で撃破され漂流する宇宙船にただひとり取り残されたガリヴァー・フォイルは、接近した輸送艇に救難信号を発するも見捨てられる。その後、科学人に捕らえられ虎のような消えぬ刺青を顔に掘られた彼は、科学人の小惑星を破壊し脱出。地球へと帰還し、自分を貶めたあらゆる存在についての復讐を果たすため帰って来た!
 本作はアレクサンドル・デュマの小説『モンテ・クリスト伯』(邦題『厳窟王』)を下敷きとした復讐劇であり、オールタイムベストSFのひとつにも挙げられる作品だ。ページをめくるごとに次々と繰り出される狂気じみた濃密さのガジェットと怒涛壮絶な展開。フォイルと魅力的なヒロインたちとの洒落た会話に、主人公に負けず劣らず超常のライバルとの丁々発止の駆け引き。そしてクライマックスに繰り広げられるタイポグラフィを駆使した文体実験が読者を圧倒する。文学的言及と言語遊びに満ちた(一部の優れた)ラノベをさかのぼること半世紀。SFはこんなこともできるのだというジャンル独自の深みと多様性の領野を切り開いたパイオニア。今なお、というより常に新しく読み継がれるSF史上に残る屈指の傑作である。


    畢竟一読
            天地驚愕
                    未知経験
                            感嘆必定