対話

「父上、今まで未読だつた安部公房をぼくもそろそろ読もうと思うのですが、いかがでしよう。面白いですか」


「さうだな、シュールだ」


「いや、そんなことは知つていますよ。ぼくが聞きたいのはさういふ一般的な評価ではなくて、『砂の女』はいいが『S・カルマ氏』はいまいちだつた、といふような父上の御感想が聞きたいのです」


「ウム、一言で言うなら「難しい」」


「さうですか、父上の御気にはさほど召されなかつたようですな」


「さもあらん。さりとてすべては昔のこと。そもそもそれほど覚えておらんな」