カフカと名乗った少年の物語

M・Kくんへ


 借りていた『海辺のカフカ』を昨晩読了しました。ここ数年、村上春樹から離れていたのだけど、久しぶりに読んだせいか今までとは違った観点で読めました。変な表現だけどシンボルやメタファーが随分ダイレクトになってないかな。なんだか随分分かりやすくなった気がします。以前と同じように、ひょっとすると前よりずっと深くハルキ読書体験を楽しめました。どうもありがとう。
 今作は20年以上語り続けられてきたムラカミ・サーガの結節点だと思う。たしかに代表作と呼ばれるにふさわしい。「ぼく」を取り巻く/巡る長い長い旅路の大いなる円環がぴたりと一巡したという印象を受けました。とはいえこの円環はコイルの一巻きに過ぎないので(参考↓)今度からは次に重なり合うひとつ上の磁場を巡ることになるのでしょう。

http://www.big.or.jp/~solar/review/kafka.html


 彼の作品の主人公はその多くが内向的な青年(常に同様なタイプの主人公≒作者?)で、作品の内外において成長したらどんな人になるのか、つまり次作はどのような語りを行なうのか、と期待半分不安半分の心持ちだったけど、まさか少年になる/帰るとは思わなかった! こいつはびっくりです。まるでスターチャイルドのようだ。廻り廻って15歳に戻るとはね。


 ところでこの作品は村上春樹の処女作『風の歌を聴け』など他の作品に通じていくと思われる表現がいっぱいあったけど、ほかのも読んだ? 未読ならそれら(特に『鼠とぼく』のシリーズと『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と『ねじまき鳥クロニクル』)を読んでから(あとできたら『オイディプス王』も)もう一度読むとまた面白いと思う。ぼくがサーガと呼んだ意味が感じられるかもしれない。


 何を言っているのか見当がつかないかもしれないけど、ぼくが村上春樹を読むときはこういう読み方をするんだ。神話における思考と同じく解析があまり意味ないことなのは重々承知しているけれど、精神分析が好きな人はこういうリーディングをしがちかもしれない。


海辺のカフカ〈上〉

海辺のカフカ〈上〉

海辺のカフカ〈下〉

海辺のカフカ〈下〉