夜爪

ゆうやけのゆうは幽焼けの幽

 昔、祖母が夜につめを切るとよくないことがおこるといっていた。

 朝晩涼しくなってきたとはいえ、昼の日はいまだ強く、夕刻の頃までは気温も高い。部屋にいるとどうにもこうにも蒸し暑いので、縁側に新聞を引いてつめを切っていた。そういえば、いま時分は逢魔ヶ刻という頃合だな、という思いがふっと頭をよぎり、その流れで祖母の話を思い出した。庭の植木の辺りでがさがさ音がするので、切ったあとの爪のカスを捨てがてらひょいと覗いてみたところ、毛の生えたネズミのような小動物がいた。ギョッとしてこちらを振り向いた顔はどうやら自分の顔のように見えた。



 ・・・というようなことは実は全然なくて、外でつめ切っていたとき訪れたのは、まだ体が黒くなっていないコオロギが一匹だけだった。ちょこんと飛び乗ってきた。まだ鳴ける状態ではないな。

  爪切って膝に飛びつく蟋蟀か